優しく過ぎた年月

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前も言ったかもしれませんが、うちの近所に知恵遅れ(知的障害)の姉妹がいます。下の子はうちの子(りすちゃん)より3歳上。そして上の子は6、7歳上で、もう二十歳になろうとしています。

その子たちが初めて「一緒に遊ぼう」と誘いに来たのは、りすちゃんが4歳(もしくは4歳より前)の時でした。まだまだ子供が小さく、外に出していいの?…それすらも分からなかった頃。その上、その子たちが知恵遅れだということすら、分かっていませんでした。

何度か断ったのですが、その姉妹は何度も何度も尋ねてきました。りすちゃんもモジモジと外に行きたそう。最初は居留守を使っていたけど、最後は観念し、うちの子を外に出してみることにしました。あの頃の私の最大の決心は、まさにコレだったのです。

遊びに行っていい場所を私が窓からのぞける範囲に限定し、何かあったらすぐに家に戻ってきなさいと約束させて外に出しました。何かあったらどうしよう…ドキドキと不安だったことを覚えています。

最初は心配だった外遊びも、毎日のように続いて、だんだんその子たちのことが分かってきました。特に上の子は、すぐにアレ?と思うくらい。。。私もオランダ語はイマイチですし、子育てをした経験がなかったので、このくらいの年齢でこれだけのことができるのが普通、という基本レベルが判っていなかったのですが、それでも分かるレベル。つまり重度の知恵遅れなのでした。

りすちゃんが5歳になる頃には、すでに6~7歳も年齢が上の上の子の脳レベルに追いつき、その子の面倒を見たり、その子が泣いてりすちゃんのところに相談に来るようになっていました。りすちゃんのほうが、ずっとずっと体は小さいのに…傍から見ると、ずいぶんヘンな構図です。

近所には彼女たちをいじめる子供もいました。あの姉妹は頭がばかな姉妹…そんな風にいう子供や大人もいました。いじめる子供がいれば、りすちゃんは小さな体を張って助ける…ことはしないけど(苦笑)、一目散に逃げる合図をかけたりするようになりました。

さらに年月がすぎ、りすちゃんが6歳~7歳になると、今度は下の子のレベルに追いついてきました。下の子は、途中まで普通学級に通っていた女の子。途中で、算数の計算がまったくできない、ということが判明し、特別学校に移った子供です。

3歳離れた下の子とはずいぶん長い間仲が良くそれから3、4年、いつも外で遊んでいたように思います。ずいぶん穏やかな女の子で、時にはりすちゃんのお姉さん、時にはりすちゃんの妹のように接してくれたのです。

いつも一緒にいたので、その子たちのお母さんもりすちゃんのことを信用してくれました。ある夏、彼女たちが1週間旅行に行く間、りすちゃんはお母さんから猫ちゃんの面倒を見るようにお願いされました。その猫ちゃんは…なんと…その家の猫ではないのですが、毎日夕飯を貰いにくる半野良ネコ?らしく、家に来たら、ネコに餌をやってくれ、というのです。別にその家の猫じゃないなら、留守中も餌をあげなくてもいいんじゃ?と思うんですが…(^_^;)。

りすちゃんは他人からお願い事をされたので、得意げに帰ってきて「やってもいいかな?」と聞きました。もちろんいいよ、と答え、餌を預かり、毎日夕方8時ころ、その子たちの家の前に行って、ネコちゃん探しをしました。何日か猫ちゃんはやってきましたが、何日かはやってこない。

やってこない日はガッカリしながら、帰宅しました。1週間すると家族は帰ってきました。りすちゃんにはお土産を買ってきてくれました。お金持ちではない(むしろかなり貧乏)な家なのに義理堅い。かわいらしいビーズの腕輪でした。

りすちゃんは、精神的にどんどん大きくなり、12歳の夏、ついにその子たちから卒業してしまう日がやってきました。りすちゃんは、思春期に突入してしまったのです。

相変わらず遊びに誘いに来てくれていたので、「また一緒に外で遊んだらいいじゃない」そう言うと、携帯を片手に「えー。だって、つまんないんだもん。やることいつも同じだし。」

うちの子は、ちゃんと普通の子で、それが当たり前なんですけど、なぜか彼女の反応を淋しく感じました。大きくなっていく、てこういうことなんだな、と。

冬にりすちゃんが足を折った時、上の子が、自分で作ったビーズのネックレスとカードを持ってきてくれました。カードにはたどたどしい字で「早く元気になってね」と書いてありました。

ちょっと涙をぬぐいながら、優しいね、と言うと、りすちゃんも、そうだよ、優しいんだよ、と言いました。

今、外で花に囲まれながら庭仕事をしていると、相変わらずこの姉妹が外で遊んでいる声が響いてきます。その声を聞いていると、まるでりすちゃんがまた小さくなったような、昔に戻ったような気分になって、優しい風が私の心をそっと撫でてくれます。うちの子だけが成長してしまったみたいでちょっと不思議な感覚なんですけど。

あの頃、私は心が病んでいて心身共にずいぶん辛かった…そんな年月だったはずなのに、今思い出してみると、優しく流れた貴重な年月だったんだなあ…と思います。

りすちゃんにとっても、きっと楽しい年月だったと思います。偏見に満ちて、あの子たちと遊んじゃいけない、なんて言わなくて良かった。心からそう思います。

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